
ゲーム「ロマンシング サ・ガ」の音楽がカッコよくて好きなので、このカッコよさは一体どこから来るのか、音楽的な分析をしてその秘密を探ってみることにしました。
●ロマサガ戦闘曲のカッコよさはどこから来るのか
「ロマンシング サ・ガ」というゲームが昔から好きです。
このゲームの魅力はその自由度の高さや作り込みの細かさなど多岐に渡るのですが、そんな魅力の一つに「戦闘シーンで流れる曲が異常にカッコいい」というものがあります。
クールで少し影のある感じの曲と言ったら良いのでしょうか、少年漫画で例えると、「一応主人公の側に付いてはいるけれどそのうち裏切るんじゃないかと読者をハラハラさせる、ニヒルな強キャラ」のようなカッコよさで、当時小学生だった私は強く惹かれたものです。
それから25年以上経った今でも私はロマサガのサウンドトラックを聴き続ける熱心なファンなのですが、その間(25年!)、頭の隅で静かに持ち続けた疑問があります。
この「ロマサガ節」とでも言える独特のカッコよさは一体どこから来るのか?
ロマサガ戦闘曲の何がそこまで我々を惹きつけるのか?
今回はそんな長年の疑問を解き明かすべく、ロマサガ戦闘曲のカッコよさの秘密を探ったレポートになります。

話が長いので結論を先に言っておくと、この記事では最終的にこのようなモデルを提唱することになります
●曲分析
@リズム(テンポ)
では実際に調査を進めていきます。
ロマサガはシリーズで1から3まであり、その中で戦闘中に流れる曲を数えると全部で15曲ありました。
まず手始めに各曲のリズム、というかテンポを測ってみることにしました。
ゲームタイトル | 曲名 | テンポ(♩=) |
---|---|---|
ロマサガ1 | バトル1 | 157 |
バトル2 | 160 | |
決戦!サルーイン | 161 | |
シェラハとの戦い | 155 | |
ロマサガ2 | バトル1 | 158 |
クジンシーとの戦い | 159 | |
七英雄バトル | 159 | |
ラストバトル | 163 | |
ロマサガ3 | バトル1 | 158 |
バトル2 | 159 | |
術戦車バトル | 158 | |
四魔貴族バトル1 | 160 | |
玄城バトル | 168 | |
四魔貴族バトル2 | 161 | |
ラストバトル | 156 |
この表を見ると驚いたことに、殆どの曲がテンポ♩=160±5の範囲に収まっています。
今まであまり意識したことがなかったのですが、ロマサガの戦闘曲はどれもテンポがほぼ同じだったのです!
小さな発見ではありますが、早速ロマサガ曲について一つの法則を見つけてしまいました。
ところで、テンポ160とはどのくらいの速さでしょうか。
比較として、唐突ですがディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」という曲を挙げてみます。
半世紀近く前の曲だけど、随分カッコいいなコレ
「ハイウェイ・スター」はその名の通りに疾走感の溢れる曲で、そのテンポは♩=172くらいです。
この曲と比べるとロマサガ戦闘曲は時速10キロほど減速したハイウェイ・スター、あるいはやや慎重派のハイウェイ・スターと言ったところでしょうか。
何が言いたいかというと、ロマサガ曲のテンポは一般的な曲の中ではけっこう速め、ということです。
これ、ゲーム的な観点から見ると、バトル時のスリル感・高揚感をBGMで演出する必要があるので、そのための一手段としてハイテンポな設定になっているのだと思います。
実を言うとこれはロマサガに限らずRPGの戦闘曲における常套手段だったりするのですが…兎にも角にもロマサガに関して一つの法則を見つけることが出来ました。
ロマサガ戦闘曲の法則 その1
・テンポは♩=160前後(けっこう速い)
・テンポは♩=160前後(けっこう速い)
A調(キー)
続いては和音、というか曲を構成する主要な調(キーのこと)について調べてみます。

調査は全て耳コピで行なわれた(私の特技は耳コピ)
ゲームタイトル | 曲名 | 主要な調 |
---|---|---|
ロマサガ1 | バトル1 | ニ長調 |
バトル2 | ト短調 | |
決戦!サルーイン | ハ短調 | |
シェラハとの戦い | ニ短調 | |
ロマサガ2 | バトル1 | ニ長調 |
クジンシーとの戦い | 変イ短調 | |
七英雄バトル | イ短調 | |
ラストバトル | ハ短調 | |
ロマサガ3 | バトル1 | ロ短調 |
バトル2 | 変ロ短調 | |
術戦車バトル | ハ長調 | |
四魔貴族バトル1 | 変ホ短調 | |
玄城バトル | 変ト長調 | |
四魔貴族バトル2 | ホ短調 | |
ラストバトル | ハ短調 |
調に関して一つはっきり見える傾向は、「短調の曲が多い」ことです。
特にラスボスやラスボス級の強い敵との戦いでは全て短調が主要調になっています。
なぜこれほどまでにマイナー調に偏っているのか?
これもゲーム的な観点から考えると説明できます。
ロマサガというのは基本的にシリアスなトーンのゲームですので、戦闘シーンでのBGMにもシリアスさが求められます。
ことにボス戦ともなると強敵との大立ち回りを演じるため、悲壮感の漂う音楽にしなければならない…ここで選ばれるのが短調なわけです。
実はこれについても先のテンポの項で見たのと同様に、他のシリアス系RPG(FFとかドラクエとか)でも見られる傾向だったりします。
なので短調はロマサガ固有の特徴、ではないのですが、ロマサガっぽい曲を作るための一つの「必要条件」とは言えそうです。
ロマサガ戦闘曲の法則 その2
・基本的に短調
・基本的に短調

この後も理屈っぽい話が続くので花の写真でも眺めて一息つきましょうか
Bメロディ
続いてメロディについて調べてみます。

15曲分の主旋律を一つずつ譜面に起こして特徴を探す作業(楽しい)
メロディに関する特徴を一言で表すと、「昔の歌のようなシンプルさ」になるかと思います。
例として、こちらの譜面をご覧下さい。

七英雄バトル(ロマサガ2)のAパート メロディ譜
まず注目して頂きたいのがその音形で、この部分では4小節を1つの単位にして同じ音形が繰り返し使われていることが分かります。
こうすることで、一度聞いただけですぐ覚えられるキャッチーさを獲得しているわけです。
もう一点、音の流れにも注目です。
次の譜面は上と同じメロディを曲線でなぞってその軌跡を描いたものになります。

メロディのパスラインを追加した譜面
この部分、音が唐突に上がったり下がったりしない、とても自然な流れのメロディラインになっています。
何となく、山奥の澄んだ川の流れを連想させる、そんな旋律です。
この曲に限らずロマサガ曲のメロディラインは、それほど奇抜なことはしない素直さ、シンプルさが持ち味なのだと思います。
このような音形のメロディを先に述べたように何度も繰り返すことによって、誰でも口ずさめる歌のようなキャッチーさが生じているのです。
ロマサガ戦闘曲の法則 その3
・メロディはシンプル(歌のよう)
・メロディはシンプル(歌のよう)
・考察1 短調+シンプルなメロディ→歌謡曲(?)
ここで「ピコーン!」と閃くものがあります。
先ほどの「ロマサガ戦闘曲の法則 その2:基本的に短調」の話を思い出してください。
短調でシンプルなメロディと聞いて思い起こすのは歌謡曲、特に昭和の時代の歌謡曲です。(昔の歌謡曲ってマイナー調の素朴なメロディのものが多いですよね)
ロマサガの曲を聴いていると昭和歌謡の香りを感じることが時々あり、「この歌謡曲っぽさは一体どこから…?」と常々疑問に思っていたのですが、これは「ロマサガ戦闘曲の法則 その2」と「その3」を組み合わせた結果なのではないでしょうか。
すなわち、ロマサガ曲の持つ「短調」と「シンプルなメロディ」の2つの性質が歌謡曲っぽさの形成に寄与しているのではないかということです。
要検証ですが、一つの仮説としてここで提起しておきたいと思います。

ここまでの内容をいったん図にまとめておきます
C転調
ここまでの議論から考えると、「では、マイナー調の歌謡曲をハイテンポにして演奏すればロマサガっぽい曲になるのか?」という疑問が生まれるかもしれません。
この問いに対して、私は「否!」と答えます。
なぜなら、これから説明する「転調」に関する部分が、ロマサガっぽさを醸し出す上で重要な要素を占めていると考えるからです。
一例として、こちらの譜面をご覧ください。

バトル1(ロマサガ3)Aパート メロディと調の遷移
この譜面では、メロディの下にその時々の調の移り変わりを示してあります。
具体的に見ていくと、まずロ短調で始まり、その4小節後にニ長調に転調し、そのまた4小節後に今度はホ短調に転調し…ちょっ…ま…
何という頻繁な転調ぶりでしょうか!
わずか16小節の間に4回も転調を重ねる曲なんて、普通の歌謡曲はおろか、他のゲーム音楽でもそうそう見かけませんよ…!
転調すると何が良いかって、時空が少し歪んだような独特の情感、エモさが生まれる点にあります。
ロマサガの戦闘曲というとエモの代名詞のようなトコがありますが(私見)、この頻繁な転調はエモさの形成に一役も二役も買っていると言えるでしょう。
あと全然関係ない話ですが、ロマサガの転調のさせ方を見ると私はなぜか山手線の田端ー品川駅間の路線図を思い浮かべます。
この区間、山手線と京浜東北線が並走していてそれぞれ同じ駅に停車するのですが、そこを何度も乗り換えを繰り返しながら目的地に向かう人の姿が頭をよぎるのです。

ロマサガの転調のように頻繁に乗り換えする人の図。中央線が途中から合流するところも似ている
ロマサガ戦闘曲の法則 その4
・転調が多い
・転調が多い
●考察2 短調+頻繁な転調→クラシック(?)
ここで再び「ピコーン!」と閃くものがあります。
短調…そして頻繁な転調…と聞いて思い付くのはベートーベンのピアノソナタのことです。
「月光」にしろ「悲愴」にしろ、ベートーベンのピアノソナタは転調に次ぐ転調が一つの特徴で、転調のオンパレード、百花繚乱状態にあります。(あと主要な調は短調のものが多い)
ロマサガ戦闘曲の魅力の一つは何といってもクラシックを彷彿させる様式的な美しさで、私は長らく「このクラシックっぽさはどうやったら出せるのか…?」と疑問に思っていたのです。
短調と頻繁な転調…ベートーベンとロマサガに共通するこれら2つの特徴が、この疑問を解くカギになるのかもしれません。
●ロマサガ戦闘曲モデルの完成
以上を踏まえると、この記事の冒頭で示したロマサガ戦闘曲モデルがここに完成します!

ばばーん
高速なテンポ、短調、シンプルなメロディ、頻繁な転調の4つの要素によって、スリル感、エモさ、様式美などの魅力が形成され、結果としてロマサガ特有のカッコよさが生まれる…そんなモデルなのです!
●終わりに
以上、ロマサガ戦闘曲のカッコよさの秘密を説明するモデルを作ってみたわけですが、果たしてこのモデルが正しいのかどうか、これだけでは判断がつきません。
今さらこんなことを言うのも何ですが、当方、音楽の専門教育を受けている人間ではありませんので、全く見当外れなことを言っている可能性もあります。
どうすればこのモデルの確かさを検証できるのか?
方法は2つあります。
ロマサガ戦闘曲モデルを検証する方法
@「ロマサガ戦闘曲 4つの法則」を満たすような曲を自作してみる(ロマサガ風オリジナル曲の制作)
A既存の曲を、上記4法則を満たすように作り替えてみる(これがいわゆる「ロマサガ風アレンジ」)
@「ロマサガ戦闘曲 4つの法則」を満たすような曲を自作してみる(ロマサガ風オリジナル曲の制作)
A既存の曲を、上記4法則を満たすように作り替えてみる(これがいわゆる「ロマサガ風アレンジ」)
以前、「津軽海峡・冬景色」をロマサガ風にアレンジする取り組みを行なったことがあるけど、それは今回の調査をする前の話である
というわけで、ロマサガ風楽曲の制作およびそれによるモデルの検証は私のFuture Work(今後の課題)となります。
ロマサガのカッコよさを探る旅はまだ始まったばかりのようです。
私にはこれからやるべきことがたくさんありそうですが、この記事に関してはここで締めくくることにしたいと思います。